内製化の罠〜できる社員が辞めて詰んだ話と、本当のコスト〜

現場のあれこれ

正直に言う。

内製化というと、外注費を削り、コスト削減が可能となる。聞こえはいい。

しかし、こんな笑い話がある。

私がまだ新人のころ、前任者からこんな話を聞いた。「俺があの仕事を内製化してやったんだぜ」という自慢話だった。もともと外注していた業務を、自分ができるからと内製化した、と。

その前任者は、辞めた。

その仕事は今、私が引き継いでいる。

なんだそれは。


引き継ぎと呼べないものを渡された

その業務は、役所に提出する、ある申請業務だった。書類の種類が多く、記載内容も細かい。一度やればすぐ覚えられる、という類のものではなかった。

当時の引き継ぎの内容は、こうだった。

「こんなことをします」という簡単なメモ。「中身は自分で調べてね」。「過去の申請内容はあるから自分で見てね」。

以上だ。

これを引き継ぎと呼ぶのは、さすがに無理がある。


役所に何度も足を運んだ

最初は、よくわからないなりに書類を作った。「こんな感じかな」という感覚で持っていった。

当然、不備だらけだった。

役所の窓口で指摘をもらう。直す。また持っていく。また別の不備が見つかる。

持参する部数が足りなかった。必要な書類が欠けていた。記入する数値が違った。記載している年度が間違っていた。

一度で通ったことは、最初のうちはなかった。

それでも毎回メモを取った。指摘された内容を記録して、自分でマニュアルを作っていった。何度も足を運ぶうちに、だんだん品質が安定してきた。


内製化の本当のコスト

「できる人が内製化した」という話は、表面上はコスト削減に見える。外注費がなくなるから。

でも、実際のコストはどこに消えたのか。

その人の頭の中に移っただけだ。

ノウハウ、判断基準、過去の経緯。それが文書化されることなく、一人の社員の脳内にブラックボックスとして蓄積される。その社員が辞めた瞬間、コストは消えるどころか、後任者のトライアンドエラーという形で、何倍にもなって返ってくる。

私の場合が、まさにそうだった。


属人化は「できる人」がいるほど進む

皮肉なことに、属人化は、できる人のところでこそ進む。本当にそうなのかは、正直わからない。でも、少なくとも私は、そう感じている。

できる人が、自分のやり方で効率よく仕事をこなす。周りはその人に任せれば回るから、あえて仕組みを作ろうとしない。本人も、自分がいる間は問題が起きないから、危機感を持ちにくい。

こうして「できる人がいるから成り立っている」という状態が、何年も続く。

以前、属人化が時限爆弾のように危ういという話を書いた(この記事)。この時はベテランが抜けるリスクの話だったけれど、今回はそれとは少し違う。「できる人が、自ら内製化して抱え込んだ」結果の属人化だ。タイムボムの針は、有能な人がいるほど、静かに進んでいく。


今、自分がやっていること

トライアンドエラーで作ったマニュアルは、今も更新し続けている。

次に誰かが引き継ぐ時、同じ苦労をさせたくない。それだけだ。

内製化そのものが悪いわけではない。ただ、「できる人が内製化した」で終わらせてはいけない。仕組みに落とし込んで初めて、本当の内製化と言えると思っている。

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