正直に言う。
前回の続きだ。
社員の車に、ナンバープレートが飛んできた。ドラレコには映っているが、番号は読めない。ベテランのB部長代理も「お手上げ」と唸った、その状況で。代理店のIさんは、こう言った。「今すぐ、高速道路交通警察隊に行きましょう」と。
番号も読めない映像が一本あるだけで、一体、何をするつもりなのか。
Iさんの、狙い
車に乗り込みながら、Iさんは説明してくれた。
「いいですか。あれだけのナンバープレートが、走行中に外れて飛んでいった。ということは、現物が、高速道路のどこかに落ちているはずなんです。そして、高速道路に落ちている危険物は、たいてい、パトロールしている警察が回収しています」
「あ……」
「そう。もし警察がナンバープレートを回収していれば、そこに番号が書いてある。映像の番号が読めなくても、現物さえ照合できれば、相手は分かるんです」
目から、鱗が落ちた。
私は、ずっと「映像の中の番号」をどうにか読もうとしていた。読めないものを、読もうとして、行き詰まっていた。でもIさんは、映像の外側——「現物が、どこかにある」という、もう一つの事実を見ていた。同じものを見て、私が「番号が読めない」と諦めたところで、Iさんは「現物を探せばいい」と動いていた。この、視点の差。これが、プロなのだと思った。
高速道路交通警察隊へ
Iさんの車で、高速道路交通警察隊の施設へ向かった。
ドラレコの映像を見せ、事情を説明し、被害の届け出を行った。何枚か書類を書いた記憶があるが、正直、細かい手続きの流れは、もう記憶が曖昧だ。(実際に同じような状況になった方は、管轄の警察に確認してほしい。)
そして——Iさんの読みは、当たった。
後日、あのナンバープレートの持ち主が、特定されたのだ。ある運送会社のトラックのものだった。判読できなかったはずの相手に、本当にたどり着いてしまった。Iさんの「現物を探す」という一手が、見事に的中した瞬間だった。
(ちなみに、相手が分からない間、うちは自分の車両保険を使って、先に車を直していた。この「相手が不明なのに、自分の保険で直す」というのが、なかなかに奥の深い話なのだが——それは、また別の回で、じっくり書くことにする。)
封印という、動かぬ証拠
相手が特定されて、もう一つ、分かったことがある。
そもそも、自動車の後部のナンバープレートには、「封印」という仕組みがある。運輸支局などが公式に施す、金属のキャップのような封だ。これは、ナンバープレートが勝手に外れたり、不正に付け替えられたりしないように施されているもので、本来、簡単に外れるものではない。
その封印がされたナンバープレートが、走行中に外れて、飛んでいった。これは、本来あってはならないことだ。つまり、相手の車両の管理に、何らかの不備があった可能性が高い、ということになる。
この「封印が外れていた」という事実が、後の交渉で、大きな意味を持つことになる。
相手が、非を認めない
ところが、だ。話は、すんなりとは進まなかった。
相手の運送会社は、最初、自分たちの非を、なかなか認めようとしなかった。「本当に、うちの車のものだという証拠があるのか」という姿勢だった。
正直、頭に血が上った。こちらの社員は、一歩間違えれば命に関わるところだった。証拠だってある。なのに、しらを切るのか、と。でも、私一人では、その憤りを、どう相手にぶつければいいのか分からなかった。感情的に怒鳴ったところで、話がこじれるだけだ。
ここでも、毅然と動いてくれたのが、Iさんだった。
決め手は、たった一言だった
Iさんは、終始、冷静だった。そして、こちらの手札を、静かに、一つずつ並べていった。
ドラレコの映像。警察に届け出て、現物のナンバープレートと照合された、という事実。そして——あの、封印だ。
その上で、Iさんは、こう告げた。
「これだけの事実がそろっています。場合によっては、管轄の行政機関に、すべて報告させていただくことになります」
これが、決め手だった。
考えてみてほしい。証拠は、すべてこちらにある。特に「封印が外れていた」という事実は、重い。封印が外れたまま車を走らせていたとなれば、それは相手の会社にとって、車両の管理体制そのものを問われかねない、重大な問題だ。下手をすれば、監査が入ってもおかしくない。
一方で、相手から見れば、実際にこちらが求めているのは、フロントガラスの修理代だけだ。つまり、こういうことになる。修理代を払うのを渋ってごねた結果、会社全体の管理体制を問われ、大事になる——そんなことになるくらいなら、素直に修理代を払った方が、はるかに安い。面倒事の大きさが、金額とは、まるで釣り合わない。
たぶん、相手はそう判断したのだと思う。最終的に、相手は「示談で、お願いしたい」と折れた。
こちらも、相手が誠意を見せた以上、それ以上は事を荒立てなかった。お互いに、これ以上、大きくしない。示談とは、こうして成立する。結果として、うちの持ち出しは、ゼロで終わった。
行動力の、化身
すべてが終わって、改めて思った。
Iさんが動いてくれなければ、私は、ただ憤るばかりで、たぶん泣き寝入りで終わっていた。判読できないナンバープレートから、映像の外側を見て相手を見つけ出し、相手がごねれば、的確な一手で黙らせる。困った時に、こちらが思いつきもしない手を、ためらいなく打ってくれる。そして——熱くなるべき場面で、誰よりも冷静でいられる人だ。
Iさんは、行動力の化身のような人だ。
事故が起きた時に、会社側がやること
最後に、この経験を踏まえて、事故対応の流れを整理しておく。
① 安全確保・状況把握
まず社員の安否。次に車両の状況。(……と書きながら、私自身は怪我の確認を後回しにして慌てたわけだが。だからこそ言いたい。何よりも先に、人の無事を確認してほしい。)
② 警察への連絡(110番)
物損事故でも、警察への届け出は必要だ。後の保険手続きや損害賠償に使う「交通事故証明書」は、警察に事故の届け出をしていないと発行されない(発行元は自動車安全運転センター)。
③ 保険代理店への連絡
早ければ早いほどいい。証拠が残っているうちに動いてもらう。腕のいい代理店なら、こちらが思いつかない手を打ってくれる。今回が、まさにそうだった。
④ ドラレコ映像の保全
上書きされる前に確保する。これが後の、動かぬ証拠になる。
⑤ 状況に応じた関係機関への届け出
今回のように、思わぬ窓口や、思わぬ事実が、解決の糸口になることもある。代理店に相談しながら動くのがいい。
さて。ここまで、Iさんが「会社」を救ってくれた話をしてきた。でも、私がこの人に頭が上がらない理由は、これだけじゃない。
次回は、もう一つのIさんの話。今度は、会社ではなく——私自身が、この人に救われた日の話を、させてほしい。
「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」
次はこの話をするね
いざという時、動いてくれる人〜保険は「誰と付き合うか」で決まる〜


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