正直に言う。
ここまで、車両管理の話から、社用車の事故、そして代理店のIさんの話まで、ずいぶん長く書いてきた。今日は、その締めくくりだ。
実は、あの一連の出来事の裏側では、「保険」という仕組みが、いろいろと働いていた。話の中では、流れを止めたくなくて、あえて詳しく書かなかった部分だ。でも、これがなかなか、知っておくと役に立つ。もらい事故に遭った時、自分の保険はどうなるのか。代理店と保険会社は何が違うのか。——正直、少しややこしい。でも、できるだけ噛み砕いて、一つずつ書いていく。
気になるところだけ、つまみ食いで読んでもらってもいい。そういう「辞書」のような回だ。
① もらい事故で相手が分からないと、自分の保険を使うことになる
まず、ナンバープレートが飛んできた、あの事故。こちらの過失はゼロ、いわゆる「もらい事故」だ。本来なら、修理代は全額、相手に払ってもらう話になる。
ところが、あの時は、相手がすぐには分からなかった。相手が分からなければ、請求する先もない。こういう時、どうするか。
答えは、自分が加入している車両保険を使って、自分で直す、だ。相手から賠償を受けられない以上、まずは自分の保険で対応するしかない。
ただし、注意点がある。これは、加入している車両保険の「型」によって変わる。車両保険には、幅広く補償するタイプ(一般型・フルカバー型などと呼ばれる)と、補償範囲を絞った安いタイプ(エコノミー型・限定型などと呼ばれる)がある。当て逃げや、道路に落ちていた物との衝突は、幅広いタイプでないと対象外になることがある。呼び方も補償範囲も保険会社によって違うので、自分の契約がどうなっているかは、一度確認しておくといい。
そして、ここからが面白い。自分の保険で立て替えて直したあと、もし相手が見つかったら、どうなるか。
保険会社が修理費を支払うと、その瞬間、本来こちらが相手(加害者)に持っていた「修理代を払え」という請求権が、法律上、保険会社に移る。これを「請求権代位(だいい)」という。保険法という法律の第25条に、ちゃんと定められた仕組みだ。平たく言えば、「立て替えた保険会社が、本来の責任者に、後から請求し直すための権利を受け取る」ということ。
つまり、立て替えた以上、保険会社としても、後から相手を見つけて、その分を取り返したい。だから、保険会社の側にも、相手を探す動機が生まれる。被害者であるこちらと、立て替えた保険会社が、同じ方向を向いて相手を探す。あの事故で相手が見つかった裏には、こういう仕組みも働いていたわけだ。
② 代理店と保険会社は、役割が違う
あの事故の時、Iさんは「相手を見つけました、保険会社から連絡させます」と言った。Iさんは保険代理店なのに、なぜ自分で交渉せず、「保険会社から」と言ったのか。
これは、代理店と保険会社で、役割が分かれているからだ。
保険会社は、保険商品を作り、保険金を支払い、相手方との示談交渉を行う、いわば大元だ。一方、保険代理店は、その保険会社の商品を販売し、契約の窓口になり、事故が起きた時に話を受け付けて保険会社に繋ぐ役割。日本損害保険協会の説明でも、代理店は保険会社と委託契約を結び、保険会社を代理して契約手続きを行う立場とされていて、保険金を支払うかどうかの判断や、相手との交渉の主体は、保険会社のほうだ。
だから、Iさんは「相手を見つけて、保険会社に繋ぐ」ところまでを全力でやってくれて、その先の交渉は、保険会社のプロが引き受ける。そういう分担になっている。
ここで大事なのは、同じ保険商品でも、どの代理店(担当者)と付き合うかで、いざという時の動きがまるで変わるということ。これは、前回のIさんの話で、嫌というほど実感した通りだ。保険を選ぶ時は、商品だけでなく、「誰が窓口になってくれるか」も、よく見たほうがいい。
③ もらい事故なのに、自分の保険を使うと等級が下がる?
ここで、ちょっと理不尽な話をする。
もらい事故、つまり自分は何も悪くないのに、相手が見つからなくて、自分の車両保険を使って直した。その場合——原則として、翌年の等級が下がる。自分の保険料が、上がってしまうのだ。
「えっ、こっちは被害者なのに?」と思うだろう。私も、最初にこの仕組みを知った時は、納得がいかなかった。でも、これがルールだ。自動車保険には「等級」という仕組みがあって、車両保険を使って保険金を受け取ると、原則として翌年以降の等級が下がり、保険料が上がる。これは、過失がゼロのもらい事故でも、基本的には同じ扱いになる。
ただし、救いもある。「車両無過失事故に関する特約(無過失事故特約)」というものがあって、これが付いていれば、自分に過失のない事故で保険を使っても、等級が下がらない扱いにできる場合がある。この特約が自動で付いている保険会社もあれば、別途付ける必要がある会社もある。また、適用にはいくつか条件があり、たとえば相手がきちんと確定していること、などが求められることが多い。
このあたりは、契約や保険会社によって扱いがかなり変わる。「もらい事故なら絶対に等級は下がらない」とは言い切れないので、心配なら、自分の契約に無過失事故の特約が付いているか、一度、保険会社に確認しておくのがいい。
④ いざという時の備え、「弁護士費用特約」
もう一つ、もらい事故と相性のいい備えを紹介しておく。「弁護士費用特約」だ。
これは、示談交渉や裁判で弁護士に依頼する時の費用を、保険で補償してくれる特約だ。自動車保険に付けられることが多い。
なぜ、これが「もらい事故と相性がいい」のか。実は、もらい事故(過失ゼロ)の場合、自分の保険会社は、相手との示談交渉を代行できないことがある。少し意外かもしれないが、理由はこうだ。保険会社が示談を代行できるのは、「自分が相手に賠償する」ケース。ところが、過失ゼロのもらい事故では、こちらに賠償義務がないので、自分の保険会社が出ていく根拠がなくなってしまう。だから、相手と直接やり合わなければならない場面が出てくる。
そんな時に、弁護士費用特約があれば、過失の有無にかかわらず、費用を抑えて弁護士に依頼できる。あとは、弁護士が相手方とのやり取りを引き受けてくれる。「自分は被害者なのに、誰も交渉を代わってくれない」という、もらい事故特有の心細さを、ぐっと和らげてくれる備えだ。
なお、この特約は、多くの場合、別途保険料を払って付けるオプションだ。ただ、商品によっては、関連する補償(法律相談の費用など)が、追加負担なく自動でセットされていることもある。自動で付くのか、任意で付けるのかは、保険会社や商品によって変わる。気になる人は、自分の保険に弁護士費用特約が付いているか、一度、確認してみてほしい。
⑤ 【社用車向け】フリート契約は、等級ではなく「会社全体の成績」で決まる
最後は、社用車をたくさん持っている会社向けの、少し専門的な話だ。個人の方は、読み飛ばしてもらってかまわない。
ここまで「等級」の話をしてきたが、実は、これは1台ごと、あるいは9台以下の契約者に適用される仕組みだ。会社で自動車を10台以上持っていると、「フリート契約」という、まったく別の料率の仕組みになる(9台以下は、これまで話してきた等級制度の扱いだ)。
フリート契約では、1台ごとの等級ではなく、会社全体の保険の使われ方で、翌年の保険料が決まる。具体的には、会社が払った保険料に対して、保険会社がどれだけ保険金を支払ったか(損害率)を主な軸に、契約台数なども加味して、割引にも割増にもなる率が決まる仕組みだ。
これが意味するのは、こういうことだ。社員の誰か一人が大きな事故を起こすと、その影響が、会社の全車両の保険料に響いてくる。逆に、会社全体で安全運転を徹底して事故を減らせば、その成果が、会社全体の保険料の割引として返ってくる。
だから、社用車を多く抱える会社にとって、事故を防ぐ取り組み——安全運転の啓発や、事故時の報告ルールの整備——は、社員を守ることであると同時に、会社のコストを守ることでもある。車両管理が、ただの台帳管理ではなく、経営に直結する仕事だというのは、こういうところにも表れている。
ちなみに、フリート契約のような法人の自動車保険も、最近はネットで複数社の一括見積もりが取れるようになってきた。自社の保険料が相場と比べてどうなのか、知る道具が揃ってきている、ということだ。このあたりの「実際に見直す方法」は、また別の機会に、じっくり紹介したいと思う。
まとめ:保険は、知っているかどうかで差がつく
長くなったが、最後にひとこと。
保険は、知識の差が、そのまま「安心」と「コスト」の差になる。もらい事故で自分の保険を使う時の備え、信頼できる代理店、いざという時の特約。これらを知っているかどうかで、いざという時の心強さは、まるで変わってくる。
もちろん、すべてを今すぐ見直す必要はない。ただ、「こういう仕組みがあるんだな」と頭の片隅に置いておくだけで、いざという時に、慌てずに済む。今日の話が、その「片隅の備え」になってくれたら、嬉しい。
そして——ここまで、車両管理という入り口から、ずいぶん長い旅に付き合ってもらった。最後まで読んでくれて、ありがとう。
「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」
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私が会社で書く文章は、面白くない〜型に縛られた私が、ここで自由に書く理由〜
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