正直に言う。私は、管理部門の人間だ。
管理部門には、持ち場がある。総務、労務、経理。私は経理から始まって、今では労務も総務も、その裏方をひと通りやっている。「総務さん」と呼ばれることもあるが、正確には、管理部門で何でもやる人、という感じだ。
では、ITは——パソコンやネットワーク、社内のシステムまわりは、誰の持ち場なのか。大きな会社なら、情報システム部、いわゆる「情シス」という専門の部署が見てくれる。でも、中小企業は勝手が違う。そんな部署は、ない。
もちろん、パソコンに強い人はいる。経理のC先輩(経理担当)は、ベンダーと対等にコードの話ができるくらいだ。でも、みんな自分の持ち場の仕事で手一杯だ。だから、ITまわりの雑用は、手の空いていそうな私に回ってくる。「お前、パソコン詳しいだろ」という、ふわっとした理由で。——断っておくが、私は情シスのスペシャリストではない。人より少しパソコンに詳しい、その程度だ。本物の情シスの人から見れば、ひよっこもいいところだと思う。それでも、回ってきたものは、やるしかない。
いちばん多いのは、スキャナだ
情シスもどきとして、いちばんよく呼ばれるのが、スキャナの不調だ。複合機でスキャンが取れなくなった、というやつ。
原因はだいたい決まっている。Windowsが勝手にアップデートして、ある朝、仕様がちょっと変わって取れなくなる。あるいは、保存先のフォルダがいつの間にかクラウドのドライブに紐づいていて、そっちに吸い込まれてしまい、スキャンの行き先が消える。
その都度、私が出ていく。手の届く場所なら、直接そこまで行って、またスキャンが取れる状態に戻す。拠点が離れていてすぐに行けない場合は、サポートの電話番号を案内する。「ここに電話して、こう言ってください」と。誰かに任命されたわけでもないのに、いつの間にか、そういうことになっている。
こういう、ちょっとしたIT雑用は、しょっちゅうある。そして、たまに——この程度では済まない、もっと大きなものが、降ってくる。
先日、会社の会計システムのリプレースがあった。長年使ってきたシステムのサポートが終わるため、新しい環境へ移すことになったのだ。その時の話は、こちらの記事に書いた。
あの時は、主担当がC先輩で、私は確認役だった。正直、ほっとした。大きな作業はC先輩が引き受けてくれて、私は横で見守っていればよかったからだ。
でも、その移行作業を眺めながら、私はふと、数年前のことを思い出していた。
同じ「移行」でも、あの時の私は、こんなに気楽ではなかった。むしろ、一人で青ざめていた。会社のホームページが乗っている、サーバーの移行だ。
「お前、詳しそうじゃん」
ことの始まりは、C先輩からのひと言だった。
会社のホームページは、外部のサーバー会社のサービスを借りて動いている。その管理を、昔はC先輩がやっていた。ところがある日、そのサーバー会社から「今のサーバー環境は古くなるので、新しい環境へ移行してください」という通知が届いた。
C先輩は、ほかにも手の離せない案件を山ほど抱えていた。そして、私にこう言った。
「これ、昔は俺が管理してたんだけどさ。お前、こういうの詳しそうじゃん。やってみてくれよ。とりあえず、通知のメール転送するから」
私は、つい調子よく答えてしまった。「はい!わかりました!」
そして、メールを受け取って、画面を開いて——固まった。
さて。何から手をつければいいんだ、これは。
「詳しそう」と言われたが、それはたぶん、私がスキャナだのパソコンだの、その手の雑用を引き受けることが多かったからにすぎない。さっきの話と同じだ。詳しいのではなく、断らなかっただけ。情シスのひよっこに、サーバー移行という大物が回ってきた瞬間だった。
そもそも、なぜ移行しないといけないのか
まず、ここから調べた。なぜ、わざわざ移行が必要なのか。
調べてわかったのは、これは「サポート終了」の問題だということだった。
ホームページを動かす裏側の仕組みは、ソフトウェアでできている。そのソフトウェアには、時々「穴」——セキュリティ上の弱点が見つかる。普段は、開発元がその穴を塞ぐ修正を出してくれる。ところが、サポートが終了したソフトは、穴が見つかっても、もう誰も塞いでくれない。穴が開きっぱなしになる。
例えるなら、車検の切れた車で公道を走り続けるようなものだ。今は走れていても、いつ問題が起きてもおかしくない。
「うちみたいな小さな会社のホームページなんて、誰も狙わないでしょう」。最初は、そう思った。でも、これが通用しないらしい。攻撃の多くは、人が手作業で狙ってくるのではなく、プログラムが自動で世界中のサイトをスキャンして、穴の開いたサイトを見つけ次第、片っ端から狙ってくる。規模は関係ない。穴が開いていれば、順番に攻撃が飛んでくる。
もし乗っ取られれば、サイトが改ざんされたり、知らないうちに別の攻撃の踏み台にされたりする。会社の信用に関わる話だ。
つまり、これは「やる・やらない」を選べる話ではなかった。「自分のタイミングで、ちゃんと移行する」か、「放っておいて、いつか痛い目を見る」か。その二択だった。
期限が、迫っていた
さらに厄介なことに、通知をよく読むと、申込の期限が決まっていた。しかも、それを過ぎると、サーバー会社の側で勝手に移行作業をされてしまうという。
勝手にやってくれるなら楽じゃないか、と一瞬思った。だが、そうではない。期限内に自分で申し込めば、動作確認のためのテスト期間がもらえる。けれど、期限を過ぎて強制的に移行されると、その動作確認がない。つまり、移行した結果ホームページが崩れていても、誰も気づかないまま公開され続ける恐れがある。
そして、私がそれに気づいた時には、期限まで、もう日がなかった。
血の気が引いた。慌てて、サーバー会社の問い合わせ窓口に電話した。手続き自体は、思っていたより複雑ではなかった。担当の方が丁寧に案内してくれて、なんとか期限内に申し込みを済ませることができた。
電話を切って、ふうっと息をついた。危なかった。あと少し気づくのが遅れていたら、と思うと、今でも少しヒヤッとする。
一人ではなかった
申し込みが済めば、あとは実際の移行作業だ。とはいえ、これも私一人では、とても手に負えない。
幸い、うちのホームページは、外部の制作会社さんに作ってもらったものだった。そこへ連絡を取ると、移行作業に伴う細かい調整は、その制作会社さんが引き受けてくれることになった。私の役割は、サーバー側で必要な準備をして、その情報を制作会社さんに渡すこと。専門的な判断は、プロに任せられる。
「連絡を取り合いながら進めましょう」。そう言ってもらえて、どれだけ心強かったか。
知識ゼロから始まったサーバー移行は、こうして、調べて、人に頼って、なんとか前に進み始めた。一人で抱え込まずに済んだのは、本当にありがたかった。
同じ「移行」でも、こんなに違う
そして、冒頭の会計システムのリプレースに話が戻る。
あの時は、主担当がC先輩で、私は確認役。気楽なものだった。でも数年前のサーバー移行は、お願いされた私が前面に立って、知識ゼロから青ざめながら走り回った。
同じ「サポート終了からの移行」でも、自分がどの立場に立つかで、こんなにも違う。楽だった移行と、大変だった移行。両方を経験して、しみじみそう思う。
情シスのいない会社の、何でも屋
スキャナの不調も、会計システムも、ホームページのサーバーも。どれも、本来なら情シスが見るような話だ。でも、うちにはその専門の部署がない。だから、総務の顔をした私のところに、ぜんぶ回ってくる。サーバーのこと、ホームページのこと、パソコンのこと、スキャナのこと。
総務が、労務が、経理が、おまけにITまで。中小企業の管理部門は、こうして気づけば何でも屋になっていく。専門でもないのに、調べて、人に頼って、なんとか形にする。その繰り返しだ。
正直、最初は「なんで私が」と思った。スキャナの前にしゃがみ込みながら、何度もそう思った。でも、調べて、人に頼って、一つずつ片付けていくうちに、気づいたことがある。これも結局は、会社を守る仕事の一部なのだ。表からは見えないけれど、誰かがやらなければ、会社は止まってしまう。スキャンひとつ取れなくても、現場の仕事は止まるのだから。
情シスのひよっこ。けれど、そのひよっこがいるから、回っているものがある。そう思うことにしている。
「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」
次はこの話をするね
「ウイルスに感染しました」は、嘘だった〜サポート詐欺で、電話してしまう前に〜
今回の記事に関連しそうなもの
特にないよ


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