退職手続きで会社側がやること一覧〜期限・必要書類・よくあるミス〜

労務・社会保険

正直に言う。

「お世話になりました」

退職届を受け取った瞬間、こちらの頭の中では、また別のスイッチが入る。お疲れ様でした、という気持ちと同時に、回収するもの、発行するもの、行政に出すものが、一斉にリストアップされ始める。

正直に言うと、退職手続きは、入社手続きよりも複雑だ。

回収するものがある。発行するものがある。行政に出すものがある。それぞれに期限があり、退職者の状況によって、対応が一人ずつ変わる。入社が「迎える」準備なら、退職は「送り出す」段取り。そして送り出す方が、やることが多い。入社手続きで会社側がやることは別の記事にまとめてあるので、対で読むと、労務の手続きの全体像が見えると思う。


まず退職届を必ず受け取る

「退職届だけど、前の会社では出さなかったから、別にいらないでしょ?」

退職者から、こう言われることがある。気持ちは分かる。でも、ここは譲らない。必ず、書面で提出してもらう。

理由はシンプルだ。後々の「言った・言わない」、あるいは「あれは解雇だったのか、自己都合だったのか」というトラブルを防ぐため。退職届は、退職者にとっても、会社にとっても、お互いを守る一枚になる。だから、ここだけは、笑顔でお願いしつつ、きっちり受け取る。


退職前にやること

退職する人は、有給を使い切ってから去るケースが多い。その場合は、最終出勤日から退職日までに少し間があるので、手続きは比較的ゆとりを持って進められる。ありがたい。

退職届を受け取ったら、このあたりを順番に押さえていく。

有給残日数と最終出勤日の確定。出勤簿・年間集計表の確保(これは後の雇用保険の手続きで必要になる)。業務の引継ぎと、共有ドライブへのデータ格納の確認。メールの自動転送設定など、業務系の整理。去る人が気持ちよく去れて、残る人が困らないように。この地ならしが、地味だが効いてくる。


最終日に回収するもの

最終日には、回収するものが、意外と多い。一つでも漏れると、後で連絡を取り合うことになるので、リストで潰していく。

□ 健康保険証または資格確認書(家族分も含む)
□ セキュリティカード・社章・鍵
□ 貸与PC・スマートフォン・備品一式
□ 名刺(本人分・受領分)

マイナ保険証は回収不要。健康保険証または資格確認書のみ回収する。もし紛失している場合は、滅失届での対応が必要になる。


退職後の行政手続きと期限

さて、ここが最も神経を使う部分だ。相手も、期限も、バラバラだからだ。

手続き提出先期限
社会保険・健康保険 資格喪失届年金事務所退職日翌日から5日以内
雇用保険 資格喪失届・離職証明書ハローワーク退職翌日から10日以内
住民税 給与所得者異動届出書市区町村退職後速やかに
源泉徴収票の発行・送付本人へ郵送退職後1ヶ月以内を目安に

とくに、社会保険の「5日以内」は短い。退職を見送ったと思ったら、もうカウントダウンが始まっている。雇用保険の書類には、出勤簿と年間集計表の添付が必要だ。賃金支払対象期間は本来6ヶ月分でいいが、欠勤などで完全な月でない場合もあるため、私は全期間を記入するようにしている。

制度の細かい部分や最新の様式は、日本年金機構の資格喪失手続きのページで確認できる。期限や添付書類は変わることもあるので、迷ったら必ず公式を当たってほしい。


住民税の処理、ここが意外と複雑

正直に言う。退職手続きの中で、私が毎回いちばん気を引き締めるのが、住民税だ。退職した時期によって、対応がはっきり変わる。

そもそも住民税は、後払いの仕組みだ。去年1年間の所得に対する税を、今年の6月から翌年5月にかけて、毎月の給与から少しずつ天引きしている。つまり退職時点では、まだ「払い終えていない分」が残っている。だから、その残りをどう払うかが、退職の時期によって変わってくる。

1月から5月末に退職した場合。その年度の5月分までの住民税の未納分が、最後の給与や退職金から一括で天引きされる。これは法律で定められていて、原則として本人が選べない。

6月から12月に退職した場合。こちらは2つの選択肢がある。退職者が申し出をしない限り、原則として普通徴収へ移行し、残りの住民税は退職者が自分で納付する。もし退職者が希望すれば、最終給与からの一括徴収も可能だ。

気をつけたいのが、一括徴収する場合。差し引く金額が大きくなって、最後の給与がマイナスになることもある。これを黙って処理すると、退職者が「最後の給料が、ほとんど無い」と驚くことになる。だから、事前にきちんと説明する。お金のことは、最後まで丁寧に。これが、気持ちよく送り出すための、最後の仕事だと思っている。


退職後に発行・送付するもの

送り出した後も、こちらから届けるものがある。

□ 健康保険・厚生年金 資格喪失証明書(本人へ手渡しまたは郵送)
□ 源泉徴収票(退職後1ヶ月以内を目安に郵送)
□ 離職票(ハローワークから届き次第、本人へ郵送)

離職票は、ハローワークから戻ってくるまでに、どうしても時間がかかる。退職した人が失業給付の手続きを急いでいることもあるので、届いたら、すぐに転送する。相手は次の生活がかかっている。ここは、待たせない。


退職金・保険の処理

会社の規程によっては、退職金の計算と支払申請が必要になる。また、会社で生命保険や養老保険などをかけている場合は、解約や名義変更の手続きが発生することもある。

このあたりは会社ごとに制度が大きく異なるので、自社の規程を確認するのが確実だ。


最後に、アカウントを止める

そして、最後の仕事。退職後1ヶ月を目処に、全てのログイン権限を削除する。メールアカウント、社内システム、共有ドライブへのアクセス権限。

これを忘れると、情報セキュリティ上のリスクになる。寂しい作業ではあるけれど、これも、会社と、去っていった本人の両方を守るための、けじめだ。


正直に言うと

退職手続きは、相手が複数いる。年金事務所、ハローワーク、市区町村、保険会社。それぞれに、それぞれの期限がある。

そのうえ、退職者の状況——有給の残日数、退職の時期、勤続年数——によって、対応が一人ずつ変わる。だから、同じ手続きは二つとない。都度確認しながら、慎重に進めるしかない。

これだけ複雑だと、頭で覚えようとしても、必ずどこかが抜ける。だから私は、フローをチェックリストにしている。一つずつ潰していけば、漏れない。地味だけど、これが、誰かをきちんと送り出すための、確実な方法だと思っている。

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