入社直後に保険証がない状態で病院に行くとどうなるか〜10割負担と療養費の話〜

労務・社会保険

正直に言う。

先日、入社したばかりの社員から、こんな問い合わせがあった。

「いつから病院に行っていいですか? 風邪をひいてしまって……」

その人は、入社してまだ数日。当然、社会保険の手続きは、今まさに進めている最中だった。

ここで「まだ手続き中だから、もう少し待って」とは、口が裂けても言えない。なぜなら、制度としては、もう病院に行けるからだ。体調が悪いなら、我慢する必要はない。

これは、体調管理がどうとか、そういう精神論の話じゃない。目の前に「今、困っている人」がいる。その人に、正しい手順を案内する。それが労務担当の仕事だ。

では、入社直後で保険証が手元にない状態で病院に行ったら、どうなるのか。整理しておく。


まず、保険証はもう「発行されない」

大前提から。2024年12月2日以降、従来の紙の健康保険証は、新たに発行されなくなった。

今は、マイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」が基本だ。マイナ保険証を持たない人には、申請しなくても「資格確認書」が交付される。どちらかがあれば、これまで通り原則3割の自己負担で病院にかかれる。

つまり、新しく入社した社員も、マイナ保険証か資格確認書のどちらかで受診することになる。


問題は、入社直後の「空白期間」だ

ここからが本題だ。

入社すると、会社は社会保険の資格取得届を提出する。でも、その情報がシステムに反映されるまでには、少し時間がかかる。私が調べた範囲では、健保組合が資格取得届を受理してから、概ね4〜5営業日ほど、というのが一つの目安のようだ。

問題は、その反映前に病院へ行った場合だ。

マイナ保険証を持っていても、病院の窓口で読み取った時に、まだ新しい保険資格が反映されておらず、前職や国民健康保険といった「直前の情報」が表示されてしまうことがある。資格確認書も、まだ手元に届いていない。今まさに、社会保険の窓口が発行手続きをしている最中で、郵送されてくるのは、はるか先だからだ。

この「どちらも使えない空白期間」に受診すると、どうなるか。

窓口で、いったん医療費を全額(10割)支払うことになる


でも、損はしない。後から返ってくる

ここで慌てないでほしい。10割払っても、その分が丸ごと自己負担になるわけじゃない。

後から加入先の健康保険に「療養費」として申請すれば、本来の自己負担分(原則3割)を除いた額、つまり払いすぎた7割が、後日払い戻される。これは、やむを得ない事情で保険証を提示できなかった時のための、ちゃんとした仕組みだ。

申請には、いくつか必要なものがある。

  • 10割を支払った時の領収書(原本)
  • 診療報酬明細書(レセプト)
  • 療養費の支給申請書

だから、入社直後にやむを得ず10割で払った時は、領収書を絶対に捨てないこと。これだけは、社員に必ず伝えるようにしている。申請の期限は、診療を受けた日の翌日から2年以内だ。

この「療養費」の仕組みや必要書類、2年という期限については、協会けんぽの立替えで医療費を全額負担したとき(療養費)のページで確認できる。加入先が健保組合の場合は扱いが異なることもあるので、正確なところは自社の健保に確認してほしい。


同じ月の中なら、病院で精算し直せることも

もう一つ、覚えておくと役立つ話がある。

10割払った後、同じ月のうちに保険資格が反映されて、新しい資格情報を病院の窓口に提示できれば、病院側で精算し直して、その場で差額を返してくれる場合がある。月をまたいでしまうと、それはできなくなり、健康保険への療養費申請という流れになる。

だから、もし10割払うことになっても、資格が反映されたら早めに病院へ相談してみるといい。月内なら、手続きがぐっと楽になることがある。

ただし、ここで一つ注意したい。今書いた「4〜5営業日」や「同月なら病院で精算」といった話は、加入している健康保険(健保組合か、協会けんぽか、国民健康保険か)によって、扱いや日数が変わってくる。正確なところは、自社が加入している健保や、協会けんぽの窓口に確認してほしい。制度の概要は、デジタル庁のマイナンバーカードの健康保険証利用についてでも確認できる。


担当者として、先に伝えておくのが一番やさしい

結局のところ、この件で一番大事なのは、入社する人に先に伝えておくことだと思っている。

「保険資格が反映されるまで、少し時間がかかります。その間に病院に行く時は、いったん全額払うことになるかもしれません。でも、後から戻ってくるので、領収書だけは取っておいてくださいね」

この一言があるだけで、新しく入った人は、ずいぶん安心する。知らずに10割を請求されて青ざめるのと、聞いていて「ああ、これか」と思えるのとでは、天と地ほど違う。

制度を知っているのは、私たち担当者だ。社員一人ひとりが制度に詳しいわけじゃない。だからこそ、聞かれる前に、こちらから手を差し出しておく。管理部門の仕事は、こういう小さな先回りの積み重ねなんだと思う。

体調が悪い時に、お金の心配までさせたくない。それくらいの気持ちで、入社案内に一行、添えておきたい。

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