電子帳簿保存法、中小企業には正直きつい〜現場担当者のリアルな対応状況〜

現場のあれこれ

正直に言う。あの落ち着いたC先輩が、苦い顔をしてるのを、私は久しぶりに見た。

経理担当のC先輩は、いつも泰然としている人だ。月末の修羅場でも眉ひとつ動かさない。そのC先輩が、ある日、書類の束を手にこう言った。「凪、これ……大変だね」。

その「これ」が、電子帳簿保存法の説明してあるパンフレットだった。名前を聞くだけで頭が痛くなる、あの法律だ。難しい言葉が並んでいるが、対応はしなければいけない。でも、何をどうすればいいのか、よくわからない。——そういう担当者は、たぶん、ものすごく多い。あの日の私たちが、まさにそうだった。今日は、その「頭が痛い」を、現場の目線で噛み砕いてみる。


そもそも何の法律か

電子帳簿保存法とは、帳簿や書類を電子データで保存する時のルールを定めた法律だ。1998年に作られ、その後何度も改正されてきた。

一言で言うと、「デジタルでやりとりした書類はデジタルのまま保存しなさい」という法律だ。


3つの区分を理解する

この法律には3つの区分がある。難しく聞こえるが、要は「その書類が、どこから来たか」で分けているだけだ。書類の”出どころ”が3パターンある、と思ってほしい。

①電子帳簿等保存自分が、パソコンで作ったもの。会計ソフトで打ち込んだ帳簿や、自分で作成した書類をデータで保存すること。「自分が産んだ書類」を、紙に印刷せずデータのまま持っておく話だ。対応は任意。やりたければやればいい。

②スキャナ保存紙でもらったものを、データに変える。取引先から紙で届いた請求書や、店でもらった紙の領収書を、スキャンして(写真を撮るようなイメージで)データにして保存すること。「紙を、データに引っ越しさせる」話だ。これも任意。紙のまま保管したいなら、それでもいい。

③電子取引最初からデータで来たもの。メールに添付されてきたPDFの請求書、ネット通販でダウンロードした領収書など、はじめから紙を介さず、データでやりとりした書類のこと。これを、データのまま保存する。そして、これだけが義務だ。

ここが、一番のひっかけポイントだ。①と②は「やってもいい」だが、③だけは「やらなければいけない」。違いは、書類の出どころ。最初からデータで来たものは、データのまま保存しなさい——これが、この法律の一番大事な一行だと思っておけば、まず間違いない。

電子取引のデータ保存については、猶予期間を経て、2024年1月から本格的に義務化されている。つまり、メールで受け取った請求書を「念のためプリントしてファイルに綴じておく」というやり方は、原則として通用しなくなった。

なお、制度の細かい要件や最新の取り扱いは、国税庁の特設サイトで確認できる。正確なところは必ず公式情報を当たってほしい。

電子帳簿等保存制度特設サイト(国税庁)


中小企業にとって、何がきついのか

制度の中身がわかったところで、本題はここからだ。これに対応するのが、中小企業にとっては、なかなかにきつい。

うちもそうだった。保存要件を正確に理解している人は、社内にいない。専任のITスタッフもいない。保存作業を自動でやってくれる仕組みもない。要するに、人も時間もシステムも足りない中で「対応しろ」と言われている状態だ。あのC先輩が苦い顔をしてたのも、無理はなかった。

でも、本当に手こずったのは、システムでも要件でもなかった。人の習慣だ。

うちは、根っからの紙文化の会社だ。メールで届いた請求書を、わざわざプリントアウトして、ファイルに綴じて、棚にしまう。それで安心する。長年、そうやってきた。「これからはデータのまま保存します」と言っても、最初はみんな、ぴんと来ない。プリントした紙を握りしめて、「これじゃダメなの?」と聞いてくる。「ダメなんです」と説明するところから始まる。

仕組みは、作ろうと思えば作れる。フォルダのルールを決めて、保存の流れを整える。それ自体は、そう難しくない。難しいのは、その新しい流れを、紙に慣れた現場に馴染ませることだ。仕組みを変えるより、文化を変えるほうが、何倍も骨が折れる。


まず、何から手をつけるか

では、具体的にどう動けばいいか。完璧を目指すより、義務の部分だけ確実に押さえるのが先決だ。

義務は、3つの区分のうち③の「電子取引」だけ。だから、メールやネットでやりとりした書類を、データのまま保存する仕組みを作る。これだけで、まず義務は果たせる。フォルダを作って、ルールを決めて、運用する。専用システムがなくても、できる範囲から始めるのが現実的だ。


「ただ保存」じゃダメ。後で”探せる”ようにしておく

ただ、ここでひとつ落とし穴がある。電子取引のデータは、ただ保存すればいいわけではない。後から、条件で検索して取り出せるようにしておく必要がある。これを「検索要件」と呼ぶ。

難しく考えなくていい。要は、「日付」「金額」「取引先」の3つで探せるようにしておけばいい、という話だ。税務調査などで「この時期の、あの会社からの請求書を出して」と言われた時に、さっと取り出せる状態にしておく、というイメージだ。

専用のシステムを入れれば自動でやってくれるが、無くても対応できる。一番手軽なのが、ファイル名に、その3つを入れてしまう方法だ。国税庁も、こういう形を例として示している。

たとえば、2026年6月30日付の、株式会社○○からの、110,000円の請求書なら——

20260630_株式会社○○_110000

という具合に、「日付_取引先_金額」の順でファイル名を付ける。こうしておけば、パソコンのフォルダ検索で「○○」と打てば取引先で、日付を打てばその日のものが、ちゃんと引っかかる。システムがなくても、ファイル名の付け方ひとつで、検索要件は満たせるのだ。一点だけ注意は、日付を西暦にするか和暦にするかを、どちらかに統一すること。途中で混ぜると、検索が揃わなくなる。

なお、この検索要件は、規模の小さい事業者には緩和される仕組みもある。前々年(法人なら前々事業年度)の売上高が一定額以下なら、検索の要件が不要になる、という考え方だ。目安としては、年商5,000万円といったラインが基準として設けられている。小規模な事業者であれば、ファイル名のルールづくりに神経質になりすぎなくてもいい場合がある、ということだ。

ただし、この基準額は過去に引き上げられた経緯もあり、自社が緩和の対象になるかどうか、また命名ルールの細かい要件は、改正で変わることがある。最終的には、必ず国税庁の最新の案内で確認してほしい。


完璧じゃなくていい、まず一歩から

うちも、まさにこのフォルダとファイル名のルールづくりから動き出した。最初から完璧な仕組みなんて、できなかった。やってみて、不便が見えて、直して、また直して。その繰り返しで、今は一通りの流れができて、運用しながら改善を重ねている。紙文化との戦いは、正直まだ途中だ。でも、確実に前には進んでいる。

電子帳簿保存法と聞くと、身構えてしまう。でも、義務の中心は「最初からデータで来たものを、後から探せる形で、データのまま残す」。まずはそこだけ押さえれば、第一歩は踏み出せる。あのC先輩の慌てた顔も、仕組みが回り始めた今では、すっかり落ち着いている。

引き続き、自社の対応を進めながら、その経過もここで報告していこうと思っている。同じ「頭が痛い」を抱えている誰かの、ヒントになればいい。

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