正直に言う。私も、就職するとき、面接で言った。
「組織の潤滑油になりたいです」と。
便利な言葉だ。なんだか前向きで、協調性がありそうで、角が立たない。今でも、就活や転職の場面で、好んで使われる言葉だと思う。(もっとも、使われすぎて、今ではもう聞き飽きた言葉になっているかもしれないが。)
でも、管理部門の現場を長くやってきた今、思う。
潤滑油って、具体的に、何だ?
辞書を引いても、よくわからない
調べてみると、こうある。
「組織や人間関係において、摩擦や衝突を和らげ、物事を円滑に進める役割を果たす人やモノ」。
なるほど。言っていることは、わかる。わかるのだが——あまりに抽象的で、結局、何をする人なのか、ぼんやりしている。
面接で「潤滑油になりたい」と言う人に、「具体的には?」と聞き返したら、たぶん多くは言葉に詰まる。かつての私が、そうだったように。
だから今日は、実務の現場から、「潤滑油」という言葉を、できるだけ具体的に翻訳してみたいと思う。これから管理部門を目指す人に、その言葉の中身を、先に知っておいてほしいからだ。
私の考える「潤滑油」
ただ、先に断っておきたい。潤滑油の形は、きっと一つではない。人の数だけ、その人なりの潤滑油があるはずだ。これから話すのは、唯一の正解ではなく、あくまで私の考える潤滑油だ。そう思って聞いてほしい。
その上で言う。私が思う潤滑油とは、こういうことだ。
会社で働くすべての人が、気持ちよく、自分の本来の業務に集中できる環境を作ること。
抽象的に聞こえるかもしれないが、中身は、ものすごく具体的で、地味だ。
パソコンの操作がわからない人がいれば、飛んでいって答える。手続きのやり方がわからなければ、案内する。自分にその知識がなければ、調べて、改めて案内する。何か事故が起きれば、そこに自分から首を突っ込んで、主導して片をつける。
経理で言えば、こうだ。営業は、物を売って終わり、ではない。少なくともうちの会社では、売った後の代金の回収まで、営業が責任を持つ。商流のすべてに責任を持つ、ということだ。でも、それを全部一人でやっていたら、営業はいくら時間があっても足りない。だから、請求書を作り、着金を確認し、売掛金や買掛金を管理する——その代行のような部分を、経理が引き受ける。営業に、営業という本業へ集中してもらうために。
つまり私にとっての潤滑油とは、「誰かが本来の力を発揮するための、見えない土台になること」だ。自分が主役になるのではなく、人を主役にする。それが、私の考える潤滑油の正体だ。
この「便利に使ってもらう」という感覚については、別のところで一日の動きとして詳しく書いた。具体的な一日を覗いてみると、潤滑油という言葉が、もう少し立体的に見えるかもしれない。
事務職の一日って、実際こんな感じ〜「便利屋」で終わらないための、現場のリアル〜
ただし、潤滑油は「何でも言いなり」ではない
ここで、大事なことを一つ。
潤滑油という言葉を、「何でも言うことを聞く、便利な人」と取り違えてはいけない。これは、まったく違う。
潤滑油には、守るべき一線がある。たとえば——会社のお金や、社員の情報を狙って、外から怪しい手が伸びてくることがある。「至急、口座情報を返信して」「社員名簿を送って」。そういう時は、流れを円滑にするどころか、断固として止めなければならない。摩擦を覚悟で、ノーと言う。それもまた、潤滑油の仕事なのだ。守るべきものを守るために摩擦を引き受けるのも、円滑さの一部だから。
その「至急」、本物ですか?〜なりすましメール詐欺の、手口と見抜き方〜
潤滑油は、ただ滑らかにするだけのものではない。滑らせていいものと、止めるべきものを、見分ける。その判断こそが、本当の潤滑油の役割だと、私は思っている。
「潤滑油です」と言う前に
組織を回すのには、潤滑油がいる。それは間違いない。そして、管理部門という存在そのものが、その潤滑油なのかもしれない。
ここまで、私なりの潤滑油を語ってきた。でも最初に言ったとおり、これはあくまで私の答えだ。潤滑油の形は、人の数だけある。
だから、もしあなたが、これから就職や転職で「組織の潤滑油になりたい」と言おうとしているなら——その前に、一度だけ、考えてみてほしい。
自分にとっての潤滑油とは、具体的に、何をすることなのか。
パソコンを教えることかもしれない。手続きを代行することかもしれない。誰かが本業に集中できるよう、見えない雑事を引き受けることかもしれない。あるいは、守るべき一線で、ノーと言うことかもしれない。その答えは、あなた自身の中にしかない。
その具体が、自分の言葉で語れたとき。「潤滑油です」という言葉は、ありふれた決まり文句から、あなただけの、地に足のついた志望動機に変わる。面接官に響くのは、たぶん、そっちだ。
「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」

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