正直に言う。
うちの会社の会計ソフトは、財務大将という。インストール型——つまり、会社のパソコンに入れて使う、昔ながらのタイプだ。
この名前を出すと、わりとよく、「……財務大将? 何それ」という顔をされる。同じ経理畑の人と話していても、だ。弥生なら、知っている。freeeも、マネーフォワードも、名前は聞いたことがある。でも、財務大将。ここで、相手の反応が一段落ちる。
世間では「これからは会計もクラウド」と言われて、もうずいぶん経つ。実際、テレビでもネットでも、見かけるのはクラウド会計の名前ばかりだ。それなのに、うちは今もインストール型。しかも、世間であまり名前を聞かないソフト。最初の頃は、こちらが何か時代遅れなものを使っているのかと、少し気まずくなったりもした。
でも、何年も経理の現場にいて、よその会社の話も聞くようになって、だんだん分かってきた。——中小企業の現場は、今もインストール型が、ぜんぜん現役だ。クラウドが一気に広がっているように見えて、実態は、そう単純じゃない。今日は、その話をしたい。
クラウド型と、インストール型
まず、言葉の整理から。会計ソフトには、大きく二つのタイプがある。
クラウド型は、インターネット経由で使う。ソフトをパソコンに入れず、ブラウザからログインして使うイメージだ。どのパソコンからでも入れて、自動でバックアップも取れる。月額や年額で払う、サブスクの形が多い。
インストール型は、会社のパソコンにソフトを入れて使う、昔ながらのタイプ。データはそのパソコン(や社内のサーバー)に置く。買い切りや、年ごとの保守契約で使うことが多い。ネットがなくても動くし、データが手元にある安心感がある。
世間の空気は、完全に「クラウド」だ。新しく開業する人、小規模な会社では、クラウドが一気に広がっている。これは、間違いない。
でも——正直に言うと、中小企業の法人の現場では、今もインストール型を使い続けている会社が、まだまだ多い。これが、私の肌感覚だ。
どんな会計ソフトがあるのか、並べてみる
名前を聞くものを、タイプ別に並べてみよう。
まず、クラウド型の代表格が、弥生・freee・マネーフォワードの3社。聞き覚えのある名前が多いかもしれない。freeeは簿記の知識が薄くても使えるやさしい画面、マネーフォワードは銀行口座との連携、弥生は老舗の安心感——と、それぞれ色がある。この3社は語ることも多いので、詳しい比較は別の記事で取り上げる。ここでは「クラウドの代表格」とだけ、覚えておいてほしい。
そして、ここからが、世間ではあまり目立たないが、現場では存在感のあるインストール型だ。
TKC
会計事務所や地方公共団体向けのシステムで知られる。経理の現場では、よく耳にする名前だ。……ちなみに、この「TKC」という社名、もとは「栃木計算センター(Tochigi Keisan Center)」の頭文字なのだという。栃木県で生まれた計算センターが、その由来らしい。会社の歴史を知ると、ただのアルファベット3文字が、急に表情を持って見えてくる。こういう「名前の出どころ」を知るのが、私はけっこう好きだ。
勘定奉行(OBC)
「おまかせあれぃ」のCMで、名前を聞いたことがある人もいるはず。中堅企業向けに強く、経理担当者の間では定番の名前だ。インストール型の老舗である。
財務大将・給与大将(ミロク情報サービス)
そして、うちが使っているのが、これ。中堅・中小企業向けのパッケージソフトだ。税理士法人経由で導入されるケースが多く、うちもまさにそのパターン。世間の知名度は正直高くないが、現場では、こういうソフトが、しっかり経理を回している。給与計算用の給与大将のほうは、別の記事で、その使い心地を本音で書いている。
なぜ、中小企業はインストール型を使い続けるのか
クラウドが便利なのは、分かっている。それでも、中小企業がインストール型を使い続けるのには、現場なりの理由がある。
一つは、顧問税理士との連携だ。
そういえば、と思って、経理一筋のC先輩(経理担当)に聞いてみたことがある。「うちって、なんで財務大将なんですか?」と。C先輩は、こともなげに教えてくれた。
「税理士事務所との、兼ね合いだね。昔はうち、別のソフトを使ってたんだよ。でも、向こうの事務所が乗り換えるタイミングで、うちもそれに合わせて、財務大将にした。それだけ」
それだけ、と言うが——よく考えると、なかなかすごい話だ。自社の会計ソフトを、自社の都合ではなく、顧問税理士事務所が乗り換えるのに「合わせて」決めた、ということだ。データをやり取りする相手(税理士)と、同じソフトで揃えておくほうが、何かと都合がいい。だから、向こうが動けば、うちも動く。いわば、税理士事務所に「ついていく」形だ。
これは、うちだけの話じゃないと思う。中小企業の会計ソフトは、自社の都合だけでなく、顧問税理士が何を使っているかで決まることが、本当に多い。
もう一つの理由は、乗り換えコストの重さだ。一度入れたソフトには、何年分ものデータが積み上がっている。それを別のソフトに移すのは、手間もリスクも大きい。「今のままで、特に困っていない」なら、わざわざ変える理由がない。気づけば、長い付き合いになっている。
こうして見ると、正直に言って、中小企業の多くは、会計ソフトを自分で「選んで」いるとは言いがたい。顧問税理士に合わせ、前任者から引き継ぎ、乗り換えが億劫で、気づけば何年も同じソフトを使っている。うちも、ご多分にもれず、だ。
それが悪いとは思わない。ただ——選択肢を知らないまま使い続けるのと、知った上で使い続けるのとでは、意味が違う。この記事が、その「知った上で」の、ささやかな材料になればいい。
「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」
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一枚のカードに、和暦と西暦が同居している〜変換に苦しむ私と、即答するB部長代理〜
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