社用車で事故が起きた日〜ナンバープレートが飛んできて、総務は何をしたか〜

総務・庶務

正直に言う。

前回、車両管理は総務の幅広い仕事だ、という話をした。その中でも、いざ起きると一番あわてるのが、事故対応だ。

今日は、私が実際に体験した、社用車の事故の話をする。数年経った今でも、はっきりと記憶に残っている出来事だ。そして、この回は——いつも頼りにしている、ある人が、本領を発揮する話でもある。


ある日の電話

仕事中に、社員から一本の電話が入った。

声が、動転している。

「高速道路を走っていたら、前からナンバープレートが飛んできてフロントガラスに当たりました。今は路肩に停めています。何が起こったのか、正直わからなくて……」

一瞬、状況が飲み込めなかった。ナンバープレートが、飛んでくる? でも、動転している相手を、まず落ち着かせなければ。私の口からは、ひとまず実務的な指示が出てきた。

「路肩は危ないです。どこでもいいので、安全なサービスエリアか、パーキングエリアまで移動してください。それと、警察にすぐ連絡を——」

そこまで言って、私は、自分がとんでもないことを後回しにしていたことに気づいた。

「……あっ。それより、お怪我はありませんか!? すみません、それを最初に聞くべきでした、本当にごめんなさい」

手順ばかりが先に口をついて、一番大事な、相手の体の心配が、後回しになっていた。我ながら、情けない。とにかく安全な場所へ移ること、警察に連絡すること、また落ち着いたら電話をくれること。それだけ伝えて、一旦、電話を切った。


「なんで、ナンバープレートが飛んでくるんだ」

電話を切って、すぐ、総務担当のB部長代理に報告に行った。

「あの、社員の車に、ナンバープレートが飛んできたようです」

「……え? ナンバープレート……か?」

「はい。ナンバープレート……です」

「すまん。なんで、ナンバープレートが飛んでくるんだ?」

「……さあ。私にも、わかりません」

二人して、しばらく首をかしげていた。長年この仕事をやってきたB部長代理ですら、見当がつかない。それくらい、前代未聞の出来事だった。今思えば、ちょっとしたコントみたいなやり取りだったが、その時は二人とも、大真面目だった。


二度目の電話

しばらくして、サービスエリアに着いた社員から、二度目の電話があった。

声が、さっきよりずいぶん落ち着いていた。「怪我はないです」と。それを聞いて、私もようやく、胸をなでおろした。

あとで思ったのだが——もしかしたら、最初の電話で私がうろたえて、順番を間違えて、慌てて謝っていた、あの様子が、逆に良かったのかもしれない。担当者がこんなに取り乱しているのを見て、「自分がしっかりしなきゃ」と、相手が冷静さを取り戻してくれた気がする。私のかっこ悪い慌てぶりが、結果的に、相手を少しだけ楽にした。狙ったわけじゃない。でも、人と人って、そういうものなのかもしれない。

落ち着いたところで、改めて、何が起きたのかを聞いてみた。だが——やはり、「前からナンバープレートが飛んできて、フロントガラスに当たった」。それ以上のことは、本人にも、よく分からないようだった。あまりに一瞬の出来事で、何が何だか、というのが正直なところらしい。

とにかく、無事に戻ってきてくれれば、それでいい。あとは、会社で何ができるかだ。幸い、ドライブレコーダーが、その瞬間を記録しているかもしれない、という。もしかしたら、何か写っているかもしれない。


ドラレコの映像を確認する

その日のうちに、社員が戻ってから、すぐにドラレコの映像を確認した。

再生する。

確かに映っていた。前方から、猛烈な勢いで何かが飛んでくる。フロントガラスに当たる瞬間まで、ハッキリと。

ナンバープレートだ。

ただ、番号までは、ギリギリ判読できないアングルだった。社員も、自分で何度も巻き戻して確認していたが、「結局、相手のナンバーまでは分かりませんでした……」と、悔しそうにしていた。映像という決定的な証拠がありながら、肝心の相手にたどり着けない。正直、私も、お手上げだと思った。

幸い、社員に怪我はなかった。本当に、それだけが救いだった。ただ、車の方は無事では済まず、フロントガラスの破損で、しばらく入院——つまり、修理工場に車を預けて、その間は代車で対応してもらうことになった。人の体に何もなかったのだから、車の傷くらいは、安いものだ。

念のため、この映像を、B部長代理にも見てもらった。長年の年季がある、総務のベテランだ。何か分かるかもしれない、と思った。

B部長代理は、腕を組んで、映像をじっと睨んでいた。そして、ひとこと。

「……凪。これは、わからんぞ。番号が読めん以上、相手の探しようがない」

ベテランの、率直な見立てだった。私も、同感だった。映像はある。でも、そこから先に進む手立てが、思いつかない。完全に、行き詰まっていた。


代理店のIさんに、連絡する

お手上げ、とは言ったものの。一つだけ、やれることがあった。

うちが長年お世話になっている、保険代理店の担当者・Iさんに、連絡を入れたのだ。

「ナンバープレートが飛んできて、フロントガラスが割れてしまって……。こういう場合、保険って、使えますか?」

半ば、諦めの相談だった。ところが、Iさんの反応は、私の予想と違った。事故の状況をひととおり聞き終えるなり、声の調子が、ぐっと前のめりになったのだ。

「凪さん、その映像、見せてもらってもいいですか?」

電話を切ってしばらくすると、Iさんは、もう、すっ飛んできた。このフットワークの軽さが、Iさんだ。

二人で、ドラレコの映像を、もう一度、頭から確認した。前方から、ナンバープレートが飛んでくる。フロントガラスに当たる。何度見ても、衝撃的な映像だ。だが、やはり、肝心の番号は読み取れない。

「……やっぱり、何度見ても番号は分かりませんね。これは、お手上げですよね……?」

私が、力なくそう漏らした時。Iさんは、まったく違うことを考えていた。映像の、別のところを見ていたのだ。

「凪さん。今すぐ、高速道路交通警察隊に行きましょう」

「……高速道路交通警察隊、ですか?」

聞き慣れない言葉に、私は、ぽかんとした。番号も読めない映像が一本あるだけで、一体、何をするつもりなのか。正直、その発想は、私には、まるでなかった。

だが、この後。Iさんは、判読すらできなかったあのナンバープレートから、本当に相手をたどり着いてしまう。私には思いもよらない、驚きの方法で。

その話は、次回。

「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」

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飛んできたナンバープレートの相手を、どう見つけたか〜社用車事故の、解決まで〜

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