正直に言う。
この前、社員から問い合わせがあった。
「営業のトップから、LINEグループを作れってメールが来たんです。急ぎらしくて。グループの作り方ってわかりますよね? 教えてもらえませんか」
私は、少し引っかかった。
「それ、メールで受け取ったんですよね? 作り方の前に、まず鵜呑みにせず、ご本人に直接確認してみてはどうですか」
その社員は、営業のトップに確認を取った。すると——そんな指示は出していない、という。
詐欺だ。その瞬間、そう確信した。問い合わせのあった社員にすぐ連絡を入れ、メールは削除し、今後は絶対に開かないよう伝えた。
そして後日。今度は、私のところにも、同じメールが届いた。確かに書いてある。「LINEグループを作れ」と。営業のトップの署名入りで。
狙われるのは、会社全体だ
こうした詐欺のメールは、特定の誰かだけでなく、会社全体に向けて、手当たり次第に撒かれている。今回のように、社員にも、私にも、同じものが届く。
その中でも、管理部門は、とりわけ狙われやすい。お金を動かし、社員の情報を握り、社内のあちこちとやり取りする。詐欺を仕掛ける側から見れば、ここを落とせば一気に実入りがある、おいしい入り口なのだ。
そして、今回のメールには、典型的な手口が詰まっていた。整理しておく。同じものが、あなたの会社にも届いているかもしれないからだ。
手口1:偉い人になりすまし、急かす
今回のLINEのメールが、まさにこれだ。「営業のトップから」「急ぎ」という体で、受け取った人を焦らせる。
巧妙なのは、今回のメールでは、相手を選んでいることだ。うちの営業のトップは、とにかく忙しく、外を飛び回っていて、なかなか本部に戻ってこない。つまり、確認を取りづらい相手だ。「本人に聞こう」と思っても、捕まらない。だから、つい指示を鵜呑みにしてしまいやすい。そこを突いてくる。
「一人で作って」「他の人は招待しないで」「QRコードを返信して」——こういう不自然な指示も、急かされていると見過ごしてしまう。冷静になれば、本当に必要なら直接連絡が来るか、もっと正規の手順を踏むはずだ。なぜわざわざ個人のLINEで、しかも一人だけで作るのか。落ち着いて見れば、おかしいと気づくはずなのに。
手口2:お金の情報を抜き取る
こんなメールも来る。
「本日、お客様より送金の予定があります。会社の受取口座情報を、至急このメールに返信してください」。
もっともらしいが、よく考えればおかしい。本当の取引なら、口座情報はすでに共有されているはずだ。それを「至急」「メールで」と急かすのは、情報を抜き取るための演出だ。これで偽の口座を掴まされたり、振込先をすり替えられたりする。昨今は、ご高齢の方を狙ったこの種の犯罪も増えているが、根っこは同じ手口だ。
手口3:社員の個人情報を狙う
「緊急連絡体制の整備のため、最新の社員連絡網を、役職も漏れなく記載して、本日終業までに返信してください」。
これも危ない。社員の氏名・連絡先・役職が一覧で手に入れば、次のなりすましの精度が一気に上がる。「終業まで」という締め切りで、考える時間を奪ってくるのも特徴だ。
手口4:偽の通知でクリックさせる/開かせる
身に覚えのない請求や領収書のメールも、よく届く。
私のところには、使ってもいないサービスの「ご利用領収書」が届いたことがある。「解約をご希望の方はこちら」というボタンが付いていて、つい焦って押したくなる。でも、そのボタンの先が、情報を抜き取る偽サイトだ。使っていないサービスの請求は、そもそも自分とは無関係なのだから、慌ててクリックする必要はどこにもない。
「この書類をダウンロードして、パソコンでのみ開いてください」といったメールも要注意だ。わざわざ「パソコンで」と指定してくるのは、その先に何か仕込まれている可能性がある。安易に開いてはいけない。
こうした手口について、警察庁も注意を呼びかけている。とくに参考になるのが、警察庁のフィッシング対策のページでの指摘だ。メールの「送信元の名前」や「アドレス」は、実は簡単に偽装できる。だから、送信元の表示だけを見て本物かどうかを判断するのは難しい、という。つまり、「営業のトップの署名があったから本物だ」とは、まったく言えないのだ。
結局、身を守る方法は3つ
いろいろな手口を挙げたが、守り方は、突き詰めるとシンプルだ。
一つ、急かされたら、まず疑う。「至急」「本日中」「今すぐ」。この焦らせる言葉が出てきたら、いったん立ち止まる。急がせるのは、考えさせないためだ。
二つ、メールの中だけで完結させず、別の経路で本人に確認する。あの時、私が社員に言ったのは、これだ。メールを鵜呑みにせず、本人に直接聞く。電話でもいい、直接会ってでもいい。メール以外の方法で確かめれば、なりすましはそこで崩れる。たとえ相手が、なかなか捕まらない忙しい人でも、その一手間を惜しまない。
三つ、一人で判断しない。怪しいと思ったら、周りに相談する。「こんなメール来たんですけど」と一言聞くだけで、「それ詐欺だよ」と返ってくることは多い。今回も、社員が私に相談してくれたから、被害は出なかった。
門番は、私たちだ
誰のところにも届くこうした詐欺メールだが、その中でも管理部門は、会社のお金と情報の、入り口に立っている。
ここが破られたら、被害は会社全体に及ぶ。逆に言えば、ここで踏みとどまれば、多くの被害は防げる。私たちは、知らないうちに、会社の門番をやっているのだ。
怪しいメールは、これからも、手を変え品を変え、巧妙な形で届く。正直、「これは私でも騙されるかもな。……まあ、私は騙されないけど」と思うほど、よくできたものもある。——ちなみに、こうして慢心する人が、一番詐欺に遭いやすい。今、私と同じことを思った人は、どうか気をつけてほしい。私もだ。
でも、慌てず、確認して、一人で抱えない。この三つを守るだけで、ほとんどは防げる。
あなたのところにも、きっと届く。その時、この話を思い出してもらえたら嬉しい。
「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」
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