正直に言う。その社員の話には、続きがある。
外国の方と結婚し(結婚の話)、奥様の退職に備えて扶養の手続きまで先回りで聞いてきた(退職の話)、あの用意周到な社員だ。私はその周到さに、半ば感心していた。
だが、彼は、もう一つ聞いてきた。
「もし、離婚することになったら。手続きは、どうなりますか」
正直、少し、引っかかった
結婚したばかりだ。それも、マッチングアプリで出会って、ご両親にも祝福された、幸せな結婚だ。
なのに、もう離婚のこと? 正直に言うと、私は少し、引っかかった。今から別れることまで考えているのか。それは、さすがに、どうなんだ。先のことを知っておきたい気持ちはわかる。でも、まだ始まってもいないのに、終わりの準備をするなんて。
もやもやしても仕方ないので、直球で聞いてみた。
「それって、どうなんですか。結婚したばかりなのに、離婚のことまで考えるのは」
彼の答えに、私は見方を変えた
彼は、こう答えた。
「幸せな今だからこそ、考えておくんです」
「実際にそういうことが起きてしまったら、たぶん、冷静に考える余裕なんてありません。心が乱れているときに、ややこしい手続きの判断なんて、できるわけがない。だからこそ、正常な精神のうちに、もしвのために備えておくべきなんです」
「それが、結局は、彼女のためにもなりますから」
……なるほど。
私は、彼のことを、少し見直した。
これは、別れを前提にした、後ろ向きな話ではなかった。むしろ逆だ。いちばん幸せで、いちばん心が落ち着いている今だからこそ、最悪の場合に備えておく。もしもの時に、傷ついて判断力を失った自分や、相手を、守るために。それは、相手を大切に思っているからこその、備えだった。
怖いから目をそらすのではなく、確かめておく。慌ててから動くのではなく、落ち着いている今のうちに、知っておく。考えてみれば、それは、とても理にかなった姿勢だ。
わかりました、調べましょう
「わかりました。そこまで言うなら、調べましょう」
そう答えたものの、さすがに、その場で即答できる知識はなかった。離婚に伴う手続きは、結婚や扶養とは、また別の世界だ。しかも、お相手は外国の方。日本人同士の離婚とは、違ってくる部分があるはずだ。
一旦、彼には帰ってもらった。そして、いつものように、調べものが始まる。
調べていくと、関わってくることが、いくつもあるとわかった。健康保険の扶養から外れる手続き。年金の切り替え。そして——これがいちばん重いのだが——外国籍の方の場合、在留資格、つまり「日本にいられる立場」に関わってくる。結婚を理由に日本にいる方にとって、その結婚が解消されるというのは、滞在の根っこに関わる、とてもデリケートな問題なのだ。
正直に言う。ここから先は、私が軽々しく「こうなります」と言える領域ではなかった。一つひとつが専門的で、特に在留資格は、一人ひとりの事情で扱いがまるで変わる。生半可な知識で語れば、人の人生を左右しかねない。だから私は、彼にこう伝えた。「関わってくるのは、こういうことです。ただ、特に在留資格については、必ず専門家——行政書士や弁護士に相談してください」と。私にできるのは、地図の全体像を見せて、確かな相談先へ手を引くところまでだ。
この記事も、私が調べた範囲の体験談にすぎない。実際に直面した方は、必ず公式の窓口や、専門家に相談してほしい。ここは、強く言っておく。
備えるということ
結婚、退職、そして——起きるかどうかもわからない、もしもの時。彼は、そのすべてを、いちばん穏やかな今のうちに、知っておこうとした。
最初は、用意周到すぎると思った。でも今は、こう思う。本当に大切なものがあるからこそ、人は、最悪の時のために備えるのだと。それは、悲観でも、心配性でもない。落ち着いているうちに、ちゃんと向き合っておく。それができる人は、強い。
もちろん、彼が調べたこの手続きが、実際に使われる日が来ないことを、私は心から願っている。これは、使われないのが、いちばんいい備えだ。
末永く、お幸せに。今度こそ、心から、そう思う。
「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」
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