正直に言う。
「労務と総務って何が違うの?」と聞かれることがある。管理部門の外にいる人には、なかなか区別がつきにくいらしい。経理・労務・総務を全部経験した立場から、整理してみたい。
先に、一言で言ってしまう。経理は「お金」、総務は「モノと環境」、労務は「人」。それぞれを管理し、守る仕事だ。似ているようで、扱うものが根本から違う。以下で、もう少し詳しく見ていく。
レストランで例えてみる
一番わかりやすい例えがある。ひとつ、レストランを思い浮かべてほしい。
あの店で働いているのは、どんな人たちだろうか。料理を作る人(製造)。料理を運ぶ人(配送・サービス)。お客さんを呼び込み、注文を取る人(営業)。——たしかに、店の主役は、この人たちだ。お客さんの前に立ち、売上を直接つくる。お店の「顔」と言っていい。
でも、店は、その人たちだけでは回らない。
食材を仕入れ、お金の出入りを管理する人がいる。厨房の設備や備品を整え、壊れたら直す人がいる。料理人が働きすぎて倒れないように、シフトや労働環境を見る人がいる。表には立たないけれど、この裏方がいなければ、料理人は料理に集中できない。
小さなお店なら、こうした裏方を、オーナーが一人で全部こなしているかもしれない。料理人が兼任していることもあるだろう。でも、ある程度の規模の会社になると、この裏方は、役割ごとに専門の担当に分かれていく。それが、経理・総務・労務だ。
役割を、レストランに当てはめてみる。経理は「食材の原価と在庫を管理する人」。お金と材料を切らさない。総務は「厨房の設備や備品を整える人」。料理人が困らない環境をつくる。労務は「料理人そのものを守る人」。働きすぎていないか、ちゃんと休めているか、無理なく働き続けられるかを見る。
全員いないと店が回らない。でも、やっていることは全然違う。そして共通しているのは——料理人が最高の一皿を出せるように、裏で支えていること。表に立つ人がいて、裏で支える人がいる。どちらが上でも下でもない。役割が、違うだけだ。
| 経理 | 総務 | 労務 | |
|---|---|---|---|
| 守るもの | お金 | モノと環境 | 人(社員) |
| レストランでいうと | 食材の原価と在庫を管理する人 | 厨房の設備や備品を整える人 | 料理人そのものを守る人 |
| 主な仕事 | 仕訳・月次/年次決算・税務申告 | 備品/施設/車両管理・慶弔対応 | 入退社手続き・社保/雇用保険・給与計算・有給管理 |
| 必要になりやすい知識 | 簿記・税務の知識 | 幅広い事務処理・社内調整力 | 労働基準法など、法令の知識 |
経理・総務・労務、それぞれの仕事内容の違い
経理は、会社のお金の流れを管理する。仕訳、月次決算、年次決算、税務申告。数字を扱う専門性が高く、一桁のミスが大きな問題になりうる。その大変さは、経理はきつい?という記事で本音を書いた。
総務は、会社が動くための縁の下の力持ちだ。備品管理、施設管理、慶弔対応、車両管理。業務の範囲が広く、会社によって担当内容が大きく変わる。突発的な依頼が最も多いのも、ここかもしれない。「総務はやめとけ」と言われがちな理由も、そのあたりにある。
労務は、社員の雇用を守る。入退社の手続き、社会保険・雇用保険の手続き、給与計算、有給管理。法令に基づいた手続きが多く、知識が必要な場面が多い。どんな人が労務に向いていないかも、別の記事で正直に書いている。
外から見ると、全部同じに見える
ただ正直に言うと、社内の他部署や社外の人から見れば、私たちは「管理部門の人」として一括りにされることが多い。経理なのか総務なのか、はたまた労務なのか、あまり区別されていない。会社によっては、総務が労務を兼ねている所もあるはずだ。
そして、一括りに「管理部門の人」と見られるからこそ、社内のありとあらゆる困りごとが、ここに集まってくる。「ネットが繋がらない」「このガジェットの使い方が分からない」「出張の飛行機を手配して」——本来の経理や労務の枠を超えた頼みごとが、何でも屋として降ってくる。経理なのか総務なのか労務なのか、頼む側はあまり区別していない。「とりあえず、あの部署に聞けばなんとかなる」。そう思われているのだ。
正直、しんどい時もある。でも、こうして頼られること自体は、悪い気はしない。会社という船が沈まないように、あちこちの穴をふさいで回る。それも、私たちの仕事なのだから。
でも、根っこは同じだ
3つは全然違う仕事に見えて、根っこは共通している。
粘り強さ。すぐに成果が出ないことが多い。緊急案件が飛び込んでくるから、臨機応変さも必要だ。ミスは起きる、起きた時のリカバリーをちゃんと自分でやる責任感。そして意外かもしれないが、コミュニケーション力がいる。社内全員と仲良くやると、仕事がスムーズになる。ギスギスした部署ではワンチームが成立せず、どんどん仕事がやりづらくなる。
どこから入ったかで、ものの見方が変わる
3つを経験して、面白いと感じたことがある。最初にどの仕事から入ったかで、ものの見方の「癖」がつくのだ。
私は、経理から入った。だからか、何を見るときも、つい「全体を掴んでから、差分を見る」癖がある。たとえば給与計算。手取りの金額だけを見る人もいるが、私はつい、総支給額から見てしまう。額面はいくらで、何がいくら引かれて、結果いくら残ったか。残りの「手取り」だけでなく、その手前の全部を、見たくなる。
これは、経理の発想がしみついているからだと思う。経理の頭が、私のものの見方の土台になっていて、労務をやっている今も、そのレンズで世界を見てしまう。逆に、総務から入った人、労務から入った人は、また違う癖を持っているはずだ。同じ管理部門でも、入り口が違えば、見えている景色が少し違う。これは、複数を経験して、はじめて気づけたことだった。
中小企業では、これを全部やる
大きな会社では部署が分かれていて、それぞれのスペシャリストがいる。でも中小企業では、一人または少人数で、これを全部担うことが多い。
私自身、経理から入って、今は総務・労務も担当している。一人で何役もこなす、何でも屋のような働き方だ。
それでも、一人きりで戦っているわけではない。先輩や同僚と助け合う場面は必ずある。やることは違っても、会社を支えるという目的は同じ。そういう意味で、私たちはワンチームなのだと思う。
どれが自分に向いているか
どれが自分に向いているか迷っている人へ。「数字が好きか」「人に関わるのが好きか」「縁の下の動き方が好きか」。まずは、そこから考えてみてほしい。
そして、もう一つ。3つを経験した私が思う、地味だけど大事な適性がある。それは——細かくて、ややこしい制度を、面白いと思えるかどうかだ。
管理部門の仕事には、一見どうでもよさそうな細則や、例外だらけのルールが、たくさん出てくる。同じ一つの手当が、税金の世界と社会保険の世界で、まったく違う扱いになる。そんな場面も、ざらにある。これを「面倒くさい」としか感じない人には、正直、しんどい仕事だ。でも、「なんでこうなってるんだろう」「へえ、よくできてるな」と、その入り組んだ仕組みを少しでも面白がれる人なら——たぶん、向いている。注意深く、細部を見るのが苦にならない人も、同じだ。
派手さはない。でも、地味な細部の中に、ちゃんと面白さを見つけられる。そういう人にとって、管理部門は、案外、悪くない場所だと思う。
「総務・労務・経理で悩むあなたに、現場から届けます。」
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